セリちゃんとのお付き合いは、僕のささくれ立った心を少しは丸くしてくれた。
あちこち二人で遊びにも行ったし、僕は段々とカレンのことを考えなくなっていた。
いや…考えないようにしていた。

「んー、もうすぐ冬休みかぁ」

セリちゃんがぼんやりと呟いている。
お決まりのファーストフードの店内は、暖かくて冬の寒さを一時忘れさせてくれる。

「ね、冬休みどこいこう」

楽しそうに雑誌を眺めながら言うセリちゃんの横で、僕も同じ様に雑誌を覗き込む。
大抵こうして、他愛もない話をしながら時間が過ぎていく。
 そろそろ帰らないと、というセリちゃんと一緒に外に出ると、外はすっかり暗くなっていた。
もういつ雪が降ってもおかしくないような天気で、僕は思わず身震いした。

「さむーい」

「明日雪振るって」

「えー、やだー」

セリちゃんの手は暖かい。
二人で手を繋いで歩いていると、少しだけ僕の心も温かくなったような気がする。

「ケンくん」

セリちゃんのねだるような声に、僕は振り向くと、そっと唇に口付けた。
こうしてセリちゃんに触れるたび、僕の心はズキリと痛む。
僕はその痛みに背を向けるように歩き出す。

 「ケンちゃん…?」

正面から聞こえた声に、僕は思わず立ち止まった。
目の前にいたのは、暫くぶりに見るカレンの弟―…ユウだった。

「ユウ…」

「こんなところで何してんだよ…」

憔悴した様子のユウに、僕は思わず後ずさりした。
隣にいたセリちゃんが、訝しげな顔でユウを見ている。

「誰?」

「お前こそ誰だよ…」

ユウは怒っているのか、セリちゃんをにらみつけている。
僕は慌てて二人の間に入った。

「何、ユウ」

「…何、じゃないだろ…。姉ちゃんのことずっとほっといて…」

ユウは僕を見た後、セリちゃんに視線を移した。

「…そんで、アンタはそいつと楽しくやってたわけ?姉ちゃんが…どんな気持ちで…」

「……」

僕は何も言う事が出来ない。
逃げていたのは事実だし、忘れようとしていたことも事実だった。
 セリちゃんだけが、状況が飲み込めないのかおろおろと僕とユウを見比べている。

「あの…」

「…一応教えておく。姉ちゃん、明日手術だから」

ユウは諦めた様に溜息をつくと、それ以上突っかかってくることもなく去っていった。
僕は途方に暮れたように暫くユウの後姿を見送っていた。
 しばらくして、控え目に僕の服の裾が引っ張られた。
セリちゃんだ。

「…どういうこと?」

僕は小さな吐息を漏らすと、今しがた出てきたばかりのファーストフード店を振り返った。

「詳しく話すよ。多分…聞いていて楽しい話じゃないけど」

セリちゃんは、泣くかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えながら、僕は店の扉を開いた。