スー…カタン
「座ってくれ」
「ん…」
結局、着替えに行った小十郎に会うこともないまま私室へと戻ってきた。
…庭に出た意味があまりなかったか…。
喉は渇いていないか、と少し気を遣って聞いてみながら自分も腰を降ろす。
こくりと頷いた愛は、口を開くこともなく黙りこんでいた。
「俺…」
愛はちらりと俺を向く。
「愛の目を見つめたとき、悪寒がしたのだ」
ひっそりとそう呟くと、愛が刹那、きっ、と睨んだ目で俺を見たと思うとすぐに逸らされた。
「だが…それは愛が嫌いだからではない」
あわあわと言葉を続けていくにつれ、愛がここを飛び出して行かないかとひやひやするようになってきた。
「愛の目が…その…母親の目に似ていたというか…、怖くて…」
自然と手が震え出してくる。
こんなこと、話すつもりはなかった。
ましてや、未来から来たといっているこんなか弱い娘何ぞに。
『奥州独眼竜』と言う名が未来にも伝わったというなら、今更昔の事を気にしているなど、情けないこと…。
「政宗にも…怖いものがあったんだね」
いきなり口を開いた愛の言葉に、かぁっと顔が熱くなる。
愛は怒ったような顔を少しもせず、ふと微笑んだ。
「母様が…大好きだったんでしょう」
未来から来たというこの娘は、俺の過去をも知っているのか。
「…あぁ、とても好いていた」
――――
『梵天丸、おいで』
『母様っ!』
『嗚呼、私の愛しい梵天丸…』
『母様、わしも母様が―――』
――…