季節は移り、まだ残暑厳しい日の昼休み。


今日も私は2人分のお弁当を手に、屋上前の扉へ急ぐ。




「リコ、遅い」


扉の窓ガラスから、差し込む光に照らされたアンジェが呟いた。


クラスの違う彼女とは、昼休みを一緒に過ごす仲になった。



出会ったときは、安全ピンをピアス代わりに刺していた彼女だったが、今ではリング状のピアスをルーズリーフのようにたくさんつけている。


それでも、こうして光に照らされた彼女は、ダークエンジェルなんて異名は似合わないと改めて思う。


私は、彼女によく似た崇高なものを知っているから…。




「ごきげんよう、アンジェ。4限の数学はサボタージュなさったの?」


「悪い?」


「大いに悪い、山田は留年でもする気か?」


いきなり、背後から声がした。



この声は間違いなく、蒼先生の声だ。


私の、大好きな人。




「私を、苗字で呼ぶな!」


アンジェの声に怒りがこもる。


「何で?」


蒼先生が、尋ねる。



私も聞いてみたかったことだけど、なんとなく避けていたことだ。


「義父の苗字は、名乗りたくない。」


そう言ったアンジェの目が、少し曇った気がした。


蒼先生は、深くは追求しなかった。