ほっと胸を撫で下ろす、僕と余合。



その時だった。


「出かけたきり戻ってこない人がいるというのに、平気で眠る人間がいたら教えていただきたいものです。」


背後から声がしたので振り向くと、一瞬、この男誰だ?と思った。


いつもは額にかからないように整えられている前髪を下ろし、メガネを外していたのでそう思ったのだが、この声は坂下先生のものだ。




坂下先生が、タバコを吹かす。


男の僕でさえも、少しドキッとさせられる程の色気を感じた。


「『真夜中は別の顔』ってカンジですね、普段の5割増くらい男前じゃないですか。」


そう言うと、坂下先生は僕を睨みつけた。



僕の中で、警鐘が鳴る。


これ以上、坂下先生を怒らせるのはマズイ…。


「申し訳ありませんでしたっ!」


僕は、頭を下げた。


それにつられるかのように、余合も頭を下げた。



坂下先生は、ため息をついた。