私はあの後、どこをどうやって帰ったのか覚えていなかった。気付けば家の前に着いていた。そんな感じだった。


松本さんと別れてから、私の頭の中はあの事でいっぱいだった。つまり、松本さんとしてしまった、キス。パパ以外の男の人との、初めてのキス。

顔が未だに火照っているけど、赤い顔をしているのかしら。そんな顔をママに見られたら、何かあったと気付かれてしまうかしら。ママって、とっても勘が鋭い人だから。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


呼び鈴を押すと、いつものように婆やが出迎えてくれた。婆やは、元々はお祖父様のお屋敷で家政婦をしていたそうだけど、私が生まれる前にこの家に来てくれたのだという。


「ただいま。パパとママは?」

「旦那様はまだお帰りになっていません。奥様はリビングにいらっしゃいますよ?」

「そう? どうもありがとう」


パパはいつもお帰りが遅かった。お仕事って大変なんだなあ。

早速リビングに行きかけたのだけど、


「お嬢様?」


婆やに呼び止められた。