うわあ、どうしよう……


あれからずっと、私は松本さんの強い視線を感じていた。それまでは私を見ようともしなかった松本さんなのに、どうして?

その視線は決して好意的でない事は明らかで、逆に蔑みや軽蔑、あるいは憎悪みたいなものを感じる。

私、何か変な事を言ったのかしら……


思えば、松本さんがそんな風に私を見るようになったのは、私が自己紹介をしてからだと思う。もっと正確には、絵理がみんなに私の事を“お嬢様”って言った時あたり……

という事は、もしかすると松本さんは私のそういうところが嫌いなのかもしれない。

本当の私は、ごく普通の女の子なのにな……


話せば松本さんもそれを分かってくれると思うけど、私から話し掛けるなんて到底出来なくて、私はただただ下を向いて居たたまれない気持ちでいた。


「栞は何にするの?」


絵理から声を掛けられた。


「えっ?」

「お料理」


そう言って、絵理は私の前にメニューを開いて置いてくれた。


「ああ……」


私はメニューに目を落としたものの、とてもそれどころの気分ではなかった。