金曜日、今日は後藤と約束をした日だ。何処に行くのだろうと少し期待をしていた。
 植草が言う通り今日子は後藤が好きなのだろうか。それは先週の金曜日のドライブから始まっている。金曜日になるのが待ち遠しいのは本当だ。これが恋というものなのか?いい大人が恥ずかしいが、初めての経験で分からないことばかりだった。
 今日は残業も指示されず、どうしていたらいいのかと心配していたが、仕事終わりにこの間の地下駐車場で待っているようにとメールがあった。
 5時に仕事を片付け、待ち合わせの駐車場へ行く。何処に止めてあるかわからず、エレベーター前で待つ。
 5分程待っただろうか、エレベーターが開き、後藤が出てきた。

「悪い、待たせたね。行こう、こっちだ」

 歩き始めるときに後藤は今日子の手を繋いだ。
 自然とつないでいる今日子は、ときめきを感じて、後藤の広い大きな背中に男性を意識した。
 車に乗り込むと、今度はちゃんとシートベルトを締めた。

「今日は俺の家に行こう。メシを作って欲しいんだ。ダメか?いきなり自宅なんて、非常識だとも思っているが、俺なりに考えた末に決めたんだ。林とゆっくり話がしたくて」

 後藤はこの一週間というもの、今日子と過ごす時間の事ばかりを考えていた。今日子の望むことをしてやりたいと思っていたが、自分が今日子と何がしたいのかを一番に考えた。
 その結果は、「どこに行くかではなく、一緒に時を過ごしたい」だった。
 探るような言葉に後藤の優しさが垣間見える。
 外で人目につくことが嫌な今日子が落ち着いて話が出来るのはそれしかないだろう。

「い、いいえ。でも料理はあまり得意じゃないですよ? いいんですか?」
「俺はお前の作ったメシが食いたいんだ。美味いか不味いかじゃない」
「わかりました」
「料理を全くしないから、冷蔵庫に何もないんだ。マンションの近くにスーパーがある。そこで食材を買い物しよう」
「はい」

 後藤の運転する車は、マンションへと向かった。
 スーパーの駐車場の車を止める。
 車から降りた今日子に手を差し伸べ、その手を取り、傍にいると訴えるような微笑を向けた。