プルルルルッ♪プルルッ♪


「・・・?」


その日も店の電話が鳴った。
決って午後から・・何度も。

首を捻って受話器を置くバイト。
また無言電話である。

あたしには思い当たるフシがあった。
前のフリン相手だ。

携帯を変えて直ぐは
こんな事なかったのに。

さては他の彼女にフラれたのかな?
ま、もうどうでもいい事なんだけど。

業者からも今日は掛かってこないから
あたしはとうとう
根元から電話線を抜いていた。

だいたいシツコイのだ。もう何度も
ヨリは戻さないと言い切っているのに。

まだ前カレだと
決ったわけじゃないけど・・。ウザイ。

やる事は探せば幾らでもあるのだ。

モヤモヤを忘れる様に、
店のデッド・タイムに独りになると
あたしは厨房で明日のお茶うけになる
キャラウェイのクッキーの材料を
あわせ始めていた。

すると今度はあたしの携帯が
引き出しのなかで鳴りだしたのだ。

着信音で優弥でないのは解っていた。
友達で分けてある・・足立くんだ。


「もしもし? ・・久し振りね。」

『ああ・・お前、もう年下と
付き合ってるって間違いないのか?』

「何、いきなり。うん、そうよ?」

『・・・・・。』

「どうしたの?」


携帯の向こう側でする雑音と、
足立の沈黙、そして優弥の事・・。

あたしは不安に苛立ってた。


『俺・・出張先の帰りなんだけど
アイツ今、女と2人腕組んで
シティ・ホテルから出て来たぞ・・。』

「・・・・・・・・。」

『一発、殴るか?』

「・・・・・・・やめて。
わざわざ、そんな事アリガトね、じゃ。」


パチ!
携帯を折り畳むと小麦粉の着いた所を
カフェエプロンで黙って拭き取ってた。

「・・・・バーカ。」

これは男二人に向けてそう呟く。

レジに向かうと伝票に
"バドワイザー"と書き込み
500円玉を売り上げに入れた。


プシュ、グビ、カチッ。


「フーっ・・、」


何よ、随分早い破局になりそうじゃない。

厨房で立ちんぼのまま飲む缶ビール。
煙草の煙に混じる溜息・・。