定時で仕事を終わらせ会社を出ると金曜日という事もあり銀座は会社帰りの人で賑わっていた


そのまま美容室で髪をセットし着替え高級フレンチ店へ着く頃には待ち合わせの2分前だった


やばいギリギリになっちゃった


エントランスで上着を預け案内されると目の前には6年間、私を指名してくれた客の成瀬が居た


成瀬は私にとって最初に付いた大切な指名客


年は賢治と同い年ぐらいで育ちの良さが見て取れた


住む世界が違うであろう成瀬は私に合わせ出勤前に大衆居酒屋に付き合ってくれる事もあり飾らない彼に憧れを抱き恋していた昔が懐かしい


結局、何の仕事をしているかは最後まで教えてくれなかったが、いつも優しく話を聞いてくれ支えになってくれていた



「成瀬さん」


成瀬を見付けると笑顔で駆け寄った



「華、ドレスよく似合ってるよ」


この日のドレスは最終日に着て欲しいと成瀬からプレゼントされたものだった


深みのある紺色のロングドレスは大人っぽくスタイルの良さを際立たせていた



「ごめんなさい遅れて

こんな高価なものよかったのに…

きっと着る機会もう無いよ」



今日でお店も最後だもんな…


店を辞めるという事を次第に実感し急に寂しくなってきた



「何飲みたい?

華の好きなウーロンハイは、さすがに無いけど」



ドリンクのメニューを差し出し笑顔で冗談を言う成瀬はやっぱり優しい