晩酌中の篤に、萌子は教頭の話をした。

「そうか…まずいな。
学校で噂になってるのか。」

疲れて帰ってきているのに、こんな話で萌子は申し訳ない気持ちだった。


杏奈の話はしなかった。
これは微妙な話だ。

もう少し待って、杏奈と一緒に産院に行ってから話そうと萌子は思った。


「まさか、向こうがなんか言ったわけじゃないよな。」

篤の言葉に萌子はハッとする。

時刻を見ると、午後九時だった。

「ちょっと聞いてみる。」
萌子は留美の母の携帯に電話をかけた。


「今、集荷なんだけどいいよ。」
仕事中だった留美の母は電話口で言った。

萌子は留美の退学について尋ねる。

「ああ、もう学校なんか行きゃしないと思ってね。
何度も学校から電話あってうるさくて。そういや、留美と和也の居場所、わかったよ。」

思いがけない留美の母の言葉に、萌子は叫んだ。

「えぇっ!?居場所、わかった!?」

萌子の様子に篤も驚き
「なんだ、わかったのか!?」
と大声を上げる。

「ど、どこにいるんですか!?」
萌子は焦りのあまり、口がもつれた。


なんでこんな大事なことを早く伝えないのか…
猛烈に腹が立った。

「昨日、留美から電話あってね。
心配するなとか言ってるから、だったら、居場所教えろ馬鹿って怒鳴ってやったんだよ。
留美はあたしに逆らえないからね。
コウズのおじいちゃんちにいるって吐いたよ。」

「コウズ?」

「神津島だよ。旦那の実家でね。
民宿やってるんだよ。そこにいるって。年寄りはしょうがないね。
甘やかしちゃって。」


「神津島か…」

電話を切ったあと、萌子と篤は顔を見合わせた。




風があると少し涼しかった。

杏奈は、家の近くの公園のベンチで麻人を待っていた。

(やはり、ちゃんと麻人と向き合わなければ。)


杏奈はそう思い、昨夜麻人にメールをして彼と会う約束をした。

久しぶりに杏奈の公休が土曜日に当たり、会うのにちょうど良かった。

「絶対泣かない!」

杏奈は自分に言い聞かせる。

いつも座っていたベンチではなく、
木陰にあるベンチを選んで座った。

そこは桜の木の下なので、桜が終わってからは要注意だが、日差しが強い今日の陽気では、そこが一番いい。

悪阻も幾分か良い感じだった。



昨夜、弟の和也と彼女の居所がわかった。

彼女の祖父母が住む神津島にいるという。
急遽、父と母は今日、神津島に向かった。



杏奈は神津島にいったことがあった。

二年前、共通の友達の陽子から
「麻人、レガシィに女乗っけてたよ。」という情報を聞いた。


この頃、やたら麻人がこそこそメールしているのはこういうことだったのか…

呆れた杏奈は、麻人に
「あんたなんかいらない。好きにすれば」と三行半を突き付けた。

麻人は言い訳もせず、鼻を掻いていた。

謝りもすれば可愛げもあるのに、と杏奈は頭に来た。