そんな馬鹿な....

 一緒に歩いてたなんていったい誰が言ったのか。それとも、捏ち上げた話で私の対応に期待したのか。何れにせよ、私にはそんな事実は無い。 


「そんな事実無根の事を言ったのは誰なんですか?」

「まさか、それを教えろと言うんですか?」

「当たり前じゃないですか」


 私は怒鳴るように言った。 
 
 それを見て、浅村はニヤリとした。 

「何をそんなに興奮を。そんなに都合が悪い話だったのかなあ」

 あれ程注意してたのに、この程度の事で感情が出てしまったか。私はこの高ぶった反応を後悔しつつ、これであいつは私に的を絞るかも知れないという予感に不要な悪寒を感じた。第三者なら、「疾しいことが無ければ堂々と」なんて、そんな正義論を展開するだろうが、正義なんてこの世に存在しないことくらいは重々承知している。


 だが、それとは裏腹に浅村は意外にも食い下がらなかった。


「証言者を教える事は今は出来ませんが、とにかく、目撃されてるということで。また来ます、では」


 いかにも消化不良のようなわざとらしい口振りに、私はあいつに餌でも蒔かれたのだろうか、などと根拠なき深い不安がモヤモヤと立ち上ってきた。