「何が連絡下さいだ。バーカ」

 それにしても、階下の住人が居なくなったと警察が知ってるという事は、捜索願いでも出ているのか。刑事は、あくまでも居なくなったというだけで、隣室の住人のように死体で見付かったとは言っていない。ならば、巷で耳にする夜逃げというやつなのでは無いのか。借金から逃れる為に人知れずに住まいを変える。この可能性も無くはないだろう。だとすると、これも私には無関係だ。何も気にする事は無い。

 翌朝、出勤する為にアパートから出た瞬間、いつもとは違う違和感を感じた。足を止め、振り返ろうかとも考えたがそれは止めておこう。多分、あの浅村に違いないだろうし。昨日の今日で警察を気にする素振りは大きなマイナスとなる。そんな些細なことがキッカケで冤罪にでも持ち込まれたら堪ったものではない。 私は、他の人達の歩調に合わせ駅に向かった。 
 電車に乗る。同じ車両に奴が乗っているのは間違いだろう。私は、立ったままずっと車窓に顔を向けていた。 
 駅に着くと、いつものように通路がごった返す。尾行してくるという事は私の会社でも確認しようという事か。隣室の住人の死亡推定時刻辺りの私の退社状況でも会社に問い合わせるのかも知れない。そんな事でもされたらこっちは大きな迷惑だ。私は、あっちこっちから肩や背中を押されながらも巧みに人混みに紛れた。