診察を終え、医院裏手の自宅に戻ると、午後九時を過ぎていた。

夕飯を食い損ねた和哉が腹を手で押さえていると、

「和哉さん、お父様にお夜食をお出しするから、あなたもいらっしゃいな」

と呼ぶ母の声を聞いた。



「ちょうど腹の虫が収まらなかったところです」

四人家族には広すぎる食堂で、さすがの父も疲れた顔だった。

「お父さん、今日はずいぶんたくさんの患者が来ましたね」

「まったく、夏の終わりの風邪はやっかいだ」

「明日は市哉にも勉強がてら手伝わせますよ」

和哉がそう執り成したとき、ばたばたと乱暴な足音が近づいて来た。