あれから仙崎はことごとく俺に媚薬を飲ませようとしたり、俺のパンツを見ようとしたりと……。

変態行動がエスカレートしている。




マネージャーになってから数日が経った今では、俺も慣れすぎて忍者みたいに避けてるわ。




しかし、今回は登校ルートと行く時間を変えてみた。

さすがに仙崎もここまでは予想できなかったろう。




俺が久々に一人の朝を満喫しながら登校していると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「お兄ちゃん!おはよう!」


弟の奈々緒(ナナオ)だ。

奈々緒は実の弟だが、体が弱く、少し遠い病院に通院している。

だから、病院に近い祖父母の家に暮らしているんだ。


「今日は早いね、どうしたの?」

「いや、別に」


奈々緒には仙崎のことは伝えてあるが、変態なのは言っていない。

奈々緒まで危ない目には会わせたくない。




「……仙崎さんのこと?」


「っ!」

「やっぱり。お兄ちゃんわかりやすいね」

「う、うるさい」


どうも奈々緒には弱いんだよな。


「あのね、お兄ちゃん。仙崎、少しおかしな噂があるんだ」


「な、何かされたのか!」

「違うよ。されるわけないじゃないか、仙崎さんなんだから」


されるんだよ、仙崎なんだから!


「そうじゃなくて。親がいないらしいんだ」

「え……?」


意外すぎる言葉。

親が、いない?


「そういう噂だよ。理由はわからないけどね……」


心配そうな顔をして言う奈々緒。




なぜかはわからない。

あいつには迷惑ばかりかけられ、うんざりもしていた。

だが、こうして言われると……。




「……心配になるだろ、バカ」



まさか、いつも無表情で棒読みなのも親がいないことに理由があるのか?


「もっとよくわからないのか?」

「無理言わないでよ。彼女、誰とも話さない大人しい子なんだ。それに、すごく美人だから話しかけづらいし」


まだ美人は認めよう。

だが大人しいは聞き捨てならない。

いつも俺にしてくるあの変態行為はなんだ。

たまに規制が入るような道具持ってくるぞ。




「……、!」


ん?なんだ?

奈々緒が固まった。



















「おはようございます、東藤さん」





「うおおおおおい!?」


「何を驚いているんですか?」


「いつも言うが、気配を消して近づくな!」


心臓が止まると思ったわ!


「ぼ、僕用事思い出した!じゃあねー!」

「あ、こら!奈々緒!」


逃げやがったアイツ。


「…………」

「どうなさいました、東藤さん」

「いや……」


聞いてはいなかったみたいだが……。

気まずいな。



「……行くか」

しまった。

ついコイツに「行くか」なんて声をかけてしまった!


何て言われるか……。



『結婚式場にですか?ごめんなさい、ドレス着てくるの忘れてました。あ、まずは籍をいれないと』

『誘っているんですか。私の家にしますか、東藤さんの家にしますか。野外プレイもイケますよ』



とかなんとか言われるんだろう。




「はい、行きましょうか。急がないと遅刻してしまいます」


…………ん?


「どうなさいました」

「あ、あぁ!行くか!」



なんだ、仙崎が大人しいぞ?

熱でもあるのか?




「……仙崎」

「はい」

「ひとつ聞いていいか」


いつもなら、絶対に聞かないが。

その場の雰囲気に流されてしまったみたいだ。


「俺のどこが好きなんだ?」



聞いてみたあと、すごい恥ずかしかった。




でも。


「不思議なこと言いますね。いつも言っているではありませんか。あなたを愛している、と。あなたのすべてが愛しいんですよ」


「…………」


「?東藤さん?」




今日は調子が狂うな。

まさかこいつの言葉で顔を赤くするなんて。


「……卑怯だろ、バカ」


「?」




少し。

少しだけ。


ドキッとしたのは内緒。