面倒なことになった。
「覚えてない……だと!?」
「…………すまん」
おそらく読者のほとんどが忘れていた例の転校生、蓮華。
顔を見たが、さっぱり思い出せなかった。
「人違いなのでは?」
「進が言うんだからそれはないだろ。俺の記憶力の問題だ」
「すごく嫌な思い出で忘れたかった、とかですかね」
「あぁ、そうかもしれないな」
「忘れてるからって人との思い出を強制的に嫌なことにするな!」
ツッコミが入ったが、昴は無視している。
「東藤クン、俺のことマジで覚えてねえの?」
「初対面としか思えないんだが」
「……まあいいや、じゃあ改めて自己紹介してあげるよ」
「なんか偉そうだな」
「名前は聞いてますから聞かなくてもいいでしょう。私達だけでも先に行きませんか」
「そこは聞けよ!あと置いてくな!」
「昴、可哀想だから聞いてやろう」
「可哀想とか言うな!」
蓮華は軽く涙目になりながらも、なんとか自己紹介をし始めた。
「俺は蓮華。蓮華・ハングリットゲーテ」
「無駄に長い名前ですね、もう『ハゲ』でいいんじゃないですか?」
「勝手に名字を省略するな!てか、省略するにしてもヒドすぎるだろ!ハゲてねえし!」
「じゃあハングリー」
「日本語にしたら『お腹すいた』じゃねえか!蓮華・お腹すいたってどんな名前だ!」
「うるさいですね」
「誰のせいだよ!」
次の授業までに戻らないといけないし、そろそろ止めるか。
「昴、もう戻るぞ。蓮華も、あまり相手にするな」
「お前もさっきまで見てただけだろ!もっと早くに助けろよ!」
「楽しそうだったし」
「どこがだ!」
俺は促すように蓮華に手を差し伸べたが、蓮華はその手を思いきり振り払った。
パンッ、という音が響く。
「東藤さん、大丈夫ですか」
すかさず昴が振り払われた俺の手を取り、握りしめた。
「俺に気安く触るんじゃねえ、東藤!忘れたようだから教えといてやるよ。お前と俺は昔……」
「昔?」
「ライバルだったんだ!」