胃袋と脳を刺激する甘い香りに誘われて、ロイドは毎朝目を覚ます。
ユイの作るお菓子の香りだ。

 彼女は毎朝暗いうちに起きて、店に並べるお菓子を作る。
ロイドが仕事で出かけている間、暇をもてあますので、玄関ホールを改装して半年前からお菓子を売る店を始めたのだ。

 午前十一時に開店して、午後の四時には閉店する。
一人で作っているので、そんなに数は多くないが、毎日きれいに完売しているようだ。

 店を始める前に、売れ残ったら全部食べていいと言われていたのに、甘いもの好きのロイドとしては完全に当てが外れた。

 以前は独り占めしていたユイのお菓子が、今では口に出来る機会が格段に減っている。
 それが結婚して唯一不満に思う事だった。

 ロイドとユイが結婚して一年が過ぎた。
 出会ってからだと二年になる。

 長い黒髪と黒い瞳のユイは、ニッポンという異世界からやって来た。

 二年前、行方不明になった王子殿下を探すため、ロイドは国王陛下の勅命により、捜索責任者となっていた。