『ローナ、俺と婚約しろ』

再び人間界に戻ってきた日のことが、忘れられない。

あれから数ヶ月…久しぶりの人間界。






そよ風にカーテンが揺れる昼時───。




エシャルで料理の練習をした。

掃除のやり方も学んだ。

魔法を使うことにも、だいぶ慣れた。

人間界での生活も、あたしの中では大事な時間になっている。



「すず、どうかした?」

「え?ううん、なんでもないわ」


ぼーっとするあたしに、隣に立っている里音が声をかけてくれる。

一緒にキッチンで料理中。



「うわー‥いい匂い」

背後から幸せそうに、佐久間さんが言った。


「がんばって作ったの。
美味しそうでしょう?」

笑って答えると、彼は相変わらず人懐っこい犬のように瞳をキラキラさせる。


「うん、すっごく美味しそう。
でもぼくが言ったのは、ヒメの髪の毛がいい匂いって意味だよっ」

うしろからあたしの肩に手を乗せて、楽しそうに言った。