真っ暗な部屋から目隠しをされて無理矢理連れてこられたその場所で。
 背中を蹴られた衝撃がエナに膝をつかせた。
「い……っ!」
 両手を繋ぐ手錠の鎖がじゃらりと音を立てた。
 そして足環から続く鎖とその先の錘(オモリ)に躓く。
「今蹴ったやつ、いつかしばく!」
 何も見えず何にも触れられないなかで、それでも力加減、足の大きさ、その厚さまでも記憶しておいてやると固く思いながらエナは振り返って威勢よく罵声を口にした。
 擦りむいたのであろう膝の痛みに歯軋り。
 自身の不甲斐無さにも腹が立つ。
「そこのお前、外してやれ」
 蹴った男と同一かもしれないなと思う無骨で高圧的な声が何かを示唆しいくつかの足音が去っていく。
 それからほんの少しの間があって、すぐ背後に人の気配。
「……目隠し、外します」
 年若い少年の声がして、たどたどしい指が後頭部に触れる。
 時折引っ張られる髪に頭を掻き毟りたくなるがそれは叶わない。
 目を覆っていた布が弛んだところで「目、瞑っていた方がいいですよ」と今ひとたび少年の声。
 そう言われたにも関わらずそれをしなかったエナの視界に飛び込んできたのは白の眩さ。
「まぶし……っ」
 言葉が口を突いて出た刹那、眼前を影が遮った。
 逆光の中、彩るのは銀色。否、それが勘違いであることにエナは気付く。銀は人が持ってはならない色とされているのだから。
 眼が慣れた頃合いを見計らって屈みこんだ少年が目隠しに使われていた布をエナに手渡した。
 銀色に見えたのは乳白色の髪であった。
 淡い藤色の瞳には全てを諦めたような感情が微かに見え隠れしている――エナが追ってきた少年だ。
「あ、さっきの……」
 エナが少年を凝視していると、少年が俄かに眼を瞠り小さな声でそう言った。
 良くも悪くも印象に残りやすいエナの色違いの瞳を、少年もまた覚えていたのである。
「会えた……けど。こういう展開、想像してなかったな」
 ほんの少し会って話をしたかっただけだというのに、今や牢の中。
 こんな形で再会を果たしたところでこの後、いったいどうすれば良いというのか。
 時間は差し迫っているし、と目を落とした先には普段からつけている指輪型の時計があった。
 七つ道具が入っている鞄は取られてしまったが、時計などの装飾品はそのままのようだ。