あの夏の日

母に連れられて帰省した田舎の縁側の下に
綺麗に形を成すいくつかのそれを見つけた

蟻地獄

初めて見た蟻地獄

幼心につついてみたり軽く崩してみたり
小さく千切った葉っぱを入れてみても何の変化もない

色々試していると

隣の蟻地獄に蟻が……


助けたい衝動
見てみたい好奇心

その狭間で身動きできず
やがて勝る幼心の好奇心

固唾を飲む


もがいても
もがいても
崩れ落ちる砂壁

飲み込まれまいと
必死にもがく蟻

蟻が力尽き落ちてくる時を
待ち焦がれる蜻蛉の幼い牙


その様に食い入るように
息を飲み身動きもせず
流れ落ちる汗を拭うこともなく
這い上がれない蟻にいつの間にか自分を重ねた


時が経ち大人になり私は知る

這い上がれない蟻ばかりではないことを

砂壁の質や角度、深さを誤り
蟻を捕食することができず
落ちてくる蟻を待ち焦がれたまま
成体になれずに死んで行く蜻蛉も多いことを

そして成体になれたとして
眩しい光に惹かれ
光るそれに飛び込み
死んで行く蜻蛉

自身もまたあの蟻のように
捕食される蜻蛉


不条理な様で
摂理でもある現実


この生きている現実を

諦めるしかないのか

最後の最期までもがくのか

砂壁を一から作り直すのか


足を動かすのか
手を伸ばすのか


すべてを奪う光と
心のなかにある光



葛藤する私の現実

蟻地獄