垣之内、と書かれた表札を繰り返し見て、立ち止まる。


インターホンを押すべきか押さぬべきか悩む暇もなく、固く閉ざされていたはずの扉は開いた。


中から出てきたのは、短い黒髪にTシャツと短パン姿で、整った顔立ちをしている優しそうな人。


果たして彼は本当に、私がここ数年探し求めていた、“垣之内さん”なのだろうか。


多くもないけれど、特別珍しくもない名前。


緊張と不安で一歩後ずされば、彼は穏やかな笑みを浮かべて、手招きした。




「……どうぞ」


「…………」




それだけ言って、家の中へ入ってしまった垣之内さんを慌てて追いかけ、私も狭いアパートへお邪魔する。


きゅうっとカバンを持つ手に力が入った。


――そうだ。絶対に。彼なんだ。


私が探し求めていたのは、彼だ。


怒りと恐怖とで、胃がキリキリしだすのが分かったが、敢えて無視して平静を装う。