砂利を走る音。国道の車の音。
(若林)「電話ボックスはと、あ、あった」

ダイヤルの音。着信音。
(児玉の声)「はい児玉です」
(若林)「児玉か?若林や。昨日帰ってきた」

(児玉の声)「おお、若林!生きとったんかいの?
ハア死んだとおもっとったがの」
(若林)「何とか生き延びてる。ところで柴山のことやけど」

(児玉の声)「ああほうよ。お前にも手紙を出したんじゃがの。
急性の白血病での、入院して3ヶ月よ。葬式にゃあ広島におる
川合、土本と宮本さん増田さんが出席してくれたんじゃがの。

死に顔が綺麗での。あいつよう見たら美人じゃったのう。
ほいでの、柴山の親父さんがの、あの時・・・・・・・・」

読経の声が聞こえてくる。
(杏子の父)「児玉さんですか?」
(児玉)「え、あ、柴山のお父さん、このたびは」
(杏子の父)「若林さんはお見えじゃないですか?」

(児玉)「あいつ海外で、3年は帰ってこんとか」
(杏子の父)「そうですか。3年ですか・・
3回忌には是非お会いしたいものです」

(児玉)「なにか?」
(杏子の父)「いやなに。杏子が小学校6年の時、
若林君が1度我が家に立ち寄ってくれたことが会って、
彼の事はよく憶えているんですよ」

読経の声遠のき消える。