私は茅野花。今日から高校一年生になる。



「んじゃ、行ってくるねー。」
「うーん!行ってらっしゃーい!」

相変わらず元気だなーお母さん。
きちんと髪は整えた。薄く化粧もした。身なりも整えた。後はドアを開けるだけ。
………………。
こういう時、私はよく失敗する。自慢じゃないけど失敗する。ありえない程失敗する。これでもかって程に失敗する。要するに失敗する。
一歩、慎重に足を運ぶ。セーフ。また一歩。…セーフ。もう一歩。……セーフ。

…………………………。我ながら馬鹿らしくなってきた。
普通に行くか。

そして、私がドアを開けようと手を伸ばした瞬間。にゅっと後ろから手が伸びてきた。もちろん私の手ではない。じゃあ誰の手かというと、

「…花姉ぇもー行くのー…?」

悠太(弟)だ。悠太は昔っからくっつき癖があるので、何かと私に手を伸ばしてくる。寝起きなのか低血圧なのか、それとも他に何かあるからこんなだるい喋り方なのか。たぶん寝起きだからが一番妥当だろう。

「………。」

ていうか朝から抱きつかれるって…。これが弟じゃなくて普通の男の子だったらなあ…。美味しいんだけど。

「わ。何考えてんの花姉ぇきもい。」
「きもい言うなカス。」

ついでに毒舌。たぶんこれは私のせい。
…というか耳元で喋られたらくすぐったいんだけど。
くすぐったさに身をよじると、さらに腕を絡ませてきた。

「………。」
「ん?」
「もうそろそろ行かなきゃ、時間なんだけど…。」
「………。」
「時間なんだけど。」
「えー」
「えーじゃないっ。ほら、早く離して」

少し語尾を強くする。

「…嫌っていったら?」
「ぶっ殺す。」

間髪いれずに即答。すると、諦めたのかのそのそと腕を動かす悠太。きちんと聞いてくれるのは嬉しいけど、相変わらず動きがのろい。

「僕だって殺されるのは嫌だかんねー。」

でしょうね。殺されるのが好きっていう人間は見た事がない。もしいたんだとしたら、相当イカれたドMなんだろうな。そう思いながらドアノブに手をかける。

「んじゃ、今度こそ行ってきます!」
「うん、行ってらっしゃい。」

――ガチャリ――

重苦しい音と共に差し込む朝日。
澄み渡る青空。ゆるゆると流れる風。


今日から、私の高校生活が始まる。