「復讐は罪と思いますか」



問われて、暫くの沈黙を守ると彼は否と応えた。



「あなたならそう仰ると思っていました」



質問者は悲しそうに笑った。


その人は右手に赤い水滴のついたナイフを携え、その足元にはうつ伏せに死した人間がある。


赤い絨毯はその滴りでさらに赤く染まり、溜まりは広がり続ける一方でその人の足を汚している。


身に纏ったフロックコートにも、頭に被った帽子にも、僅かに見える指先にまでも飛び散ったそれは、何故だか薔薇の花弁に見えて。


そんな人を眺めながら、紅い両眼の青年はまるで平然と落ち着いている。



「では殺人は罪と思いますか」


「ああ」


「じゃあ、わたしは罪人ですね」


「自覚があるなら、死のうとするな」




からんと乾いた音をたててナイフが溜まりに堕ちた。


言葉が重く突き刺さる。


まるで、嗚呼、死神の鎌のよう。