しばらくぼーっとしていた。

 お客様に電話をしてとにかく話を聞かなければならないことは判っている。一体どうしたのか、他社の攻略であれば防止せねばならないし、病気が見つかったとかなら余計に保険の必要さを説かねばならない。

 だけどもあたしは動けなかった。

 ずっと追いかけて信頼を勝ち取り、2年越しのアプローチでこの7月戦にようやくもらえた記念すべき一件が、3回引き落としのみで手の平から零れ落ちようとしている。

 どうしたんですか、と聞く勇気があたしにあるだろうか。

 空っぽの支部長席を見る。

 ・・・・今こそアドバイスが欲しい。というか、一緒に解約防止に行ってほしい。

 あたしの成績は危機に陥り、頂いた給料は没収される。努力もかけた時間も水の泡。お客様に裏切られたような気持ちになって凹んで沈んでいくだけ。

 解約は仕方ない。人には都合が色々ある。だけども、早期の解約はわけがわからない。あたしにどんな不備があっただろうか・・・。

 支部の成績からも差し引かれ、お願い契約ではないかと噂される。あたしは顧客を一人失い、これからも気まずくなるのだろう。

 足を引っ張り合いの営業の世界で、これほど人を喜ばすネタはねえよな・・・と机に突っ伏した。

 悲しんでくれるのは、一緒に追いかけてくれたFPとこの支部の皆さんだけだろう。

「・・・・きっつい・・・」