波は穏やか、風は追い風、マシュー号は滑るように海の上を進んでいく。
この天候なら、目的の神殿のある島まで早く着くことが出来るだろう。

シーファは甲板で目の前に広がる海を眺めた。
初めて海に出たときとは全くその美しさは違っていた。
自由を手に入れた解放感、これからの冒険への期待。でも、きっと…

くるりと後ろを向くと『仲間』がいる。

これが一番の理由だと思った。

「シーファ。
感傷に浸るのもそこまでだぞ。仕事、あるんだからな。」

リュートがいたずらっぽく笑って言った。

「何を偉そうに…あんたがいつもどれだけの事をしてるっていうのよ。」

ニーナが持っている海図で頭を小突く。ぽかんっ、と軽い音がした。
くすくす笑うシーファにニーナが近づく。

「これがここら辺の海図。見方、教えるわね。」

「へん!海図が読めるくらいでなんだよ!俺だってなぁ…」

「海を旅するのに、海図は必須だ。
お前も仕事しろ。
ほれ、木材持ってきてやったぞ。」

ガルが船底からいくつかの木材を運んで上がってきた。リュートはこれこれ!と木材を吟味しはじめた。
約束のベッドを作るらしい。

「ありがとう、リュート。楽しみにしてる。」

「そんなに期待しないほうがいいわよ?」

「だぁー!ニーナ、俺の作るものは完璧だ!」

肘をついて呆れた顔のニーナにリュートがプンプン怒った。

「部屋に運ぶときにまた呼べ、下で食料の整理をしてる。
…サイズ、気を付けろよ。」

ガルの言葉にリュートはますます頬を膨らませた。

「あ、整理と言えば…
後で私たちも部屋の整理をしましょうね。」

「うん。でも、私は荷物少ないから一人で大丈夫よ。」

「そういやさ〜シーファ、さっき着てたドレスってどうすんだ?」

「え?どうするって…もう着ないし、雑巾にでもすれば使い道があるんじゃない?」

早速、木材をノコギリで切り始めたリュートが聞くと、シーファはあっさりとそう言った。

「雑巾って、あんた…
せっかくのドレスなのに…いつかの為にとっておいたら?」

「…国には戻らないってば!」

そういう意味で言ったんじゃないと、ニーナは笑った。