時間は現在に戻る。ひび割れたリノリウムの床、散乱したガラス片、むき出しの断熱材ー荒廃した廃ビルに、俺と凛童ちゃんが二人きり。

もし、お互いがただの人間で、世界の裏側なんて知らない、「悪魔なんて、非科学的だ」と、いえるような人間だったのならば、俺らはこんなところにいなかっただろう。

こんなところで、彼女は俺に銃を向けていなかっただろうし、俺は彼女に出会うこともなかっただろう。

世界は残酷だ。物語の中で存在すればいいものが存在して、存在していてほしいものが存在しない。

死んだ人間は生き返らないし、人間が悪魔になって、悪魔は実は人間です、なんてフィクションみたいな話を、平気で事実に塗り替えてしまう。


世界は残酷だ。そんな世界の中で、俺は彼女に―綾芽に出会って、恋をしてしまうのだから。