「え――、昨日一緒に帰って来たのー!?」
 巽のおかげでディナーというものに慣れる、とは大げさかもしれないが、行くことができるようになった香月愛は、それでも、しつけに厳しい兄の前での久しぶりのテーブルマナーにそこそこ緊張していた。
 それぞれの料理のメインであるラム肉や、白身魚もテーブルに並んで付け合せのエビや色ピーマンで更に色鮮やかになり、ここぞというタイミングなのに、いきなり大声で驚いてしまう。
「声が大きい」
 顔を顰めて制したのは、やはり夏生(なつお)。
「ごめんごめん」
 ここは、香月の兄、夏生が経営するショッピングモールの中に入っている高級レストラン。経営者であり、更にオーナーでもある彼は、ピシっとダークスーツでキメ、それはそれは堂々と、且つ、隅々までチェックするように現在食事に手をつけようとしている。
 その隣には、こちらはノーネクタイで少しラフにキメた無口な弟、正美(まさみ)。丸いテーブルなので、3人掛けても、皆同じ距離で話ができ、しかもしっかり顔色を伺える。
「全然知らなかった……、でも何で先に電話してくれないの? 急にごはん行こうって言ったって、今日も本当は作ってたんだから!」
「突然妹の家に行って、何が悪い」
 どうせルームシェアなんて信じられないとか、毒吐くから嫌だったんですけど。
「いや、悪くはないけど。だって、もしいなかったら無駄足になるし」
 香月は、目を逸らしてとりあえず、肉にナイフを入れた。
「……ただ、あの男が何者で、どういう経緯でそんなことになったのか気になるが」
 キタ……、ルームマンションの詮索だ。さっき自宅に来たとき、運悪くユーリが玄関で対応してしまったのだ。更に奥には真籐もいたが、どちらと勘違いしたのだろう。
「……どの?」
「一人じゃないのか!!」
 兄は、奥の真籐は目に入らなかったのか、愕然とした表情を大袈裟に作る。しかし、そういうリアクションが単に好きなだけだ。
「3人暮らしだよ。だから安全」
「信じられない神経だ……」
 目を見開いてじろじろこちらを見ているが、そのわりに、特にショックを受けていないのが、いつもの兄だ。オーバーリアクションが得意なだけなのである。
「一人は会社の副社長の息子で、もう一人は……まあ、若干おかまっぽいというか」
 ウケ狙いで答えたが、兄は
「おかまったって、元は男だぞ!?」
 テーブルに拳をダンっと乗せて、またリアクションをしてみせる。
「まあ、男は男なんだけど、女に興味ない、というか」
 そんな話一度もしたことはないけど、言い出したら言い切らないと、話が完結できなくなる。
「はああああ……、馬鹿げてる」
 夏生は額に手をやり、頭をもたげて大きく溜息をついた。
「別に、馬鹿げてないよ」
「海外が長いとすぐこれだ……」