姉が結婚をする。
 服装は今より落ち着いた風になって、ロングスカートなんか履いて、にっこり優雅に歩く。その手はベビーカーを押しているかもしれない。隣には旦那がいる。優しそうでハンサムで、もしかしたらメガネをかけた知的な風かもしれない。
 想像したことは何度もある。ただそれは、姉の結婚風景というよりは、よくある夫婦像に姉の顔を当てはめただけのものだった。
 それが、今、姉自身が作り出した本物の家庭として再現されようとしている。
 結婚をして、毎夜旦那に抱かれ、いずれ妊娠する。
 そんな姉は、一生自分など見ない。
 今でも、見てくれるとは思ってはいない。
 だが、結婚によって目の端にも入れないようになることは、確実だ。
 姉が純白のドレスを纏った結婚式で、自分は何を思う?
 決して祝うことのできない自分は、兄の隣でぼんやり立ち尽くして、どうする?
 3日ほど考えた。
 仕事をしようにも手につかなかった。
 今の締め切りはまだ先と、確かに余裕はあったが、間近でも他のことを考えることなどできなかっただろう。
 ついに携帯電話をとる。午後9時。姉の仕事は多分終わっているはずだ。
『もしもしー?』
 5回目のコールでちゃんと出てくれる。声が響いていて、駐車場のようだ。
「もしもし、今どこ?」
『今家の駐車場』
「明日休み?」
『うんそう』
 運も味方してくれている。
「あのさ、ちょっと相談したいことがあるんだけど……いいかな。今から」
『今!? 今、どこ?』