* 世界の終わりに、君は笑う
「……うそ、だろ?」
双子の過去を視終わり、最初に出た言葉は、それだけだった。
アンネッテもまた、フェイと同じ思いである。
「まさかディオンが……セリシアだったなんて」
だから、月の石(ムーンストーン)を持っていたのね。
そしてこれは、セリシアにとって、たったひとつの形見……。
「過去で視たあの街は……セヴェールのはずだ。此処からだと歩いて四日。人工精霊が目覚める二日前には到着出来るはず」
何とか間に合いそうだな、とフェイは続けた――と同時に、うっ、とアンネッテは胸元を握り締めながら、その場に倒れる。
「アンネッテ? おい、アンネッテ!」
息は荒く、彼女の体はとても熱い。
もう一度声をかけようとした、そのとき――がさがさと草陰から物音が聞こえてきた。
咄嗟にフェイは目を向ける。
「あれは……屍肉喰らい(フレッシュイーター)」
レクスの者たち、そしてエルヴィスの死骸を喰いに来たのか。
( そのエルフも、喰っていいか )
鋭い爪を光らせながら、一体のフレッシュイーターが話しかける。
「いいわけないだろう。アンネッテは、死んでいない」
( でもよ、そのままだと、どうせ死ぬぞ )
「なっ……」
( まあソイツはいいか。此処は喰うもんが多いからな )
そう言って、そのフレッシュイーターはエルヴィスの腕を千切り取り、むしゃむしゃと食べはじめた。
「一体どうすれば、アンネッテは助かるんだ。こんなときこそ、ディオンがいれば……」
言いかけて、口を噤(つぐ)んだ。
小さく、フェイは笑う。
それはまるで、己を嘲笑うかのように。