ケータイ小説 野いちご

オトナの純情-最後の恋-

最後の恋
  4.何よりもほしくて絶対に手に入らないもの


匠が春に中国へ行って半年、付き合う人もいなくて、出かけるといえば会社の女性たちがほとんどだ。

今日は、今年度入社してきた後輩の子からお洒落な店を教えてほしいと頼まれて、このダイニングバーに連れてきた。

鉢合わせに使っていた店で、わたしにとってはあまり好きな場所ではないけれど、そう店を知っているわけでもない。

ただ、後輩に対して、見かけ倒しと思われたくなかったという、まったくもって不必要なプライドによって来てしまった。後輩が無性に喜んでくれたのが救いだ。

ここは、わいわい騒げる場所ではないけれど、話声をひそめなくてはならないような場所でもない。
程よく声がこもって落ち着ける雰囲気がある。


「立花さん、お化粧室はどこですか」

「カウンターの奥。ここ、お化粧室もお洒落だから」

「うわぁ。じゃ、いってきます!」


後輩は張りきってカウンターのほうへと向かった。

業平への入社を機に、広島から上京してきた彼女はいちいち反応が無邪気だ。

わたしはうらやましさ半分、独り笑った。


「いま独り?」


ワインを一口飲んで、グラスをテーブルに置いたと同時に、すぐ傍の頭上から低い声がした。



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