6月頭にある県高総体の壮行式が体育館で行われ、無事に終わったというのに教室に戻れない。


ぞろぞろと全校生徒が出ていく中、残っているのはおしゃべりに夢中な生徒と、膨大な数のパイプ椅子。


私は昨日、散々拭いたパイプ椅子の片付けに参加しなければならない。


「いくら今日のレポート免除って言っても、やる気は出ないと思うの」

「ほら、きびきび畳んで運ぶっ」


パンッと手を叩いたのは悠々と椅子に座るミーアだった。


「手伝ってくれないの!?」

「だからこうして応援してあげてるんでしょー」


全校生徒にエールを送ってもらったばかりのスタメンが言うセリフとは思えない!


「はあ……」


とりあえずサボるわけにもいかないし……運ぼう。


自分が座っていたものと近場のパイプ椅子二脚を持ち、両手で引きずるようにして体の右側に抱え直す。


開けられたステージ下の収納には、野球部がせっせとパイプ椅子を片付けている。私もそこを目指し、ガチャガチャと音を立てながら歩く。


「楓鹿じゃん」


右へ目を遣れば、両手に花どころか全身に花の李堵(りど)先輩がいた。いつの間に脱色したのか、ホワイトブロンドカラーに変わった軽い長髪を括っている。


「ちょこちょこ歩いて何してんの。貸しな。運んでやる」

「じゃあお願いします」


手を差し出された瞬間にパイプ椅子を押し付け、くるりと踵を返した。