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「おほ……っおっフォォオオオオ!!!」


朝のSHRが終わった1年E組には『今日もか……』という空気が流れ始めた。


「バッ、バンビせんぱ……っ!? ぐっはーーー!!! マジ可愛いんですけどぉおおお!!!」


俺が送った写真を見て興奮するきゅうは、天に祈りを捧げるが如く床に膝をつけ、頭上にかざした携帯を仰ぎ見ている。そのまま背骨がバキッと折れろ。


「きゅうってバンビ先輩オタクっていうか、信者っていうか、キモイわー」


後ろの席にいるバクが頬杖をつきながらきゅうを見下ろす。椅子に座る俺は足元で携帯を仰ぎ見るきゅうに白い目を向けた。


「おい、きゅう。土下座しろ」

「サンキューなぁああ!!! トラァーーー!!!」

「あぶねえ!」


体当たりする勢いできゅうが抱きついてきて、ぞっとした。


「離れろ! お前、自分の車幅考えろ!」


肩を押し返せば、4月の身体測定で170センチを超えたきゅうは離れ、不満げな顔をする。


俺はきゅうより背が2センチ高いが、内心追いつかれるんじゃねぇかと密かにひやひやしていた。


「なんっだよ! 人がせっかく感謝してやってんのに!」

「俺は土下座しろって言ったんだよ」

「感謝で土下座っておかしいべや!」