あらゆる病を治す力を持つ、『久遠の花』と呼ばれし薬師の一族。
 昔は不老不死の術を持っていると言われ、その力を狙う者もいた。

 人を生かすことが『久遠の花』の使命。
 たとえ己の命を犠牲にしてでも生かしてみせる、という誇り。

 幼い頃からそう教えられ、自分もその一人なのだと嬉しく思っていた。
 
 幅広い知識も、先人が築き上げてきた技術も、万能薬となる我が身の血も。
 すべては苦しむ人々を、一人でも多く救うために存在する。

 個人の利益のためだけに独占されることは許されない。
 そんな輩から守るために生まれた『守り葉』。
 彼らが体を張って守ってくれるからこそ、安心して暮らすことができた。

 けれど、もし守り切れず捕らわれることになるなら、悪用される前に自ら命を断てと教わった。

 悪用され、人を傷つけるぐらいなら、自分が死んだほうがよっぽどいい。
 その覚悟は出来ていたつもりだった。



 けれど、何の前触れもなくそれが現実になった時。
 次々と倒れていく仲間たちに背を向け、気づけば妹の手を取って逃げていた。


 死にたくない。死にたくない。死にたくない。
 森の中を走っている最中、ずっとそのことが頭の中を巡っていた。