隠れ里から連れ出され、すぐにいずみと水月は荷馬車の荷台に押し込められた。

 どこにでもある、少し汚れた行商人用の馬車。
 荷台の中は薄暗く、幌と馬車の繋ぎ目の隙間から、かろうじて外の光が入っていた。

 怪しまれぬよう行商人のふりをするつもりなのか、荷袋や木箱が乱雑に置かれている。
 馬車が動き始めると、ごとん、ごとん、と下から突き上げられる度、荷物が驚いたように震えていた。

「大丈夫、水月? ケガはない?」

 いずみは四つん這いになりながら水月に近づき、心配そうに彼の顔を覗く。
 かなり憔悴しきっていたが、嗚咽は治まり、少し落ち着きを取り戻していた。

「……ああ大丈夫だ。悪ぃな、心配かけさせて」

 水月は天井を仰ぐと、手で顔を覆った。

「オレ、情けねぇな。カッコ悪く泣きわめいて、腰も抜かして、怖くて震えることしかできなくて……」

「誰だってこんなことになったら冷静でいられないわ。私だって、ほら――」

 いずみは両手を胸元まで上げ、手のひらを水月に見せる。
 しっかりしなければ、という自分の意思を無視して、両手は小刻みに戦慄いていた。

「ずっと震えが止まらないの。怖くて、怖くて、このまま消えてしまえたらいいのにって思っているんだから」

 仲間と両親が死んでしまった事実からも、これからの自分の行く末からも、逃げてしまいたい。
 でも、水月を逃がすまでは、絶対に死ねない。

 どうにか恐怖を抑えようとして、いずみは大きく深呼吸する。
 すると、血の気が戻らない手のままで、水月がいずみの両手を握ってきた。

「オレは散々泣かせてもらったから、次はいずみの番だ。頼りねぇけどオレの胸を貸すから、いっぱい泣いてくれ」

 水月はいずみと目を合わせ、ぎこちなく微笑む。
 その優しさに、いずみの胸が詰まった。

 一気に出し損ねた慟哭が、胸の奥から吹き出した。

「……水月――っ」

 堪え切れずに、いずみは水月にしがみつき、嗚咽を漏らす。

 大好きだった一族のみんな。
 昨日まで当たり前にあった穏やかで笑い合える日常は、完全に壊されてしまった。
 あらゆる病を治せる薬師でも、死んだ人間を生き返らせることはできない。

 もう元には戻れない……その事実が、いずみの心を深々とえぐった。
 こみ上げるままに涙を流し、水月の胸元を濡らしていく。
 何も言わずに彼はいずみの背を優しく抱き、時折、子供をあやすように叩いてくれた。