◇◇◇空白





橙の空に黒が混じり始めた頃、少女は住宅街を歩いていた。


手には黄色のリードが握られている。


傍らで子犬が歩いている。子犬の首輪と少女のリードは繋がっていない。



少女の瞳はどこか虚ろで、歩みはふらふらと不安定だった。


子犬はそんな様子の主人を心配そうに見つめる。



不意に、子犬は小さく鳴いた。


背後から飛んできた野球ボールが、頭部に直撃したのだ。


脳震盪を起こし、倒れる。


少女はそんな子犬を一瞥し、次に、転がる野球ボールに視線を送った。



それから、背後へ振り向いた。



「お、俺は悪くない!ちゃんとリードに繋いでおかないのがいけないんだっ!」


そこへ立っていたのは、グローブを着けている少年。


少女へ言い捨てたのは、謝罪ではなく保身の言葉。


それからすぐに、その場から走って逃げていく。



少女は立ち尽くし、子犬を見つめて涙を流す。










「……やり返さなくちゃ……」






そう呟いた少女の涙に反射して、虚ろな瞳に光が射した。



少女は、リードを強く握りしめた。