少年は、気が付いたらだだっ広い草原の真ん中に立っていた。

遠くには蒼い空に浮かぶ山々があり、そこから流れ落ちる滝は、細く白い糸のようにも見える。

風に乗って漂ってくる甘い花の香り。草原の向こうに見える緑豊かな森林…。

まったく、見知らぬ風景だった。何故このような場所にいるのか──解らない。
 
しばらく辺りを見回していると、突然、空に暗雲が現れ、光はすべてそれに呑み込まれていった。

「──!?」
 
その暗雲は渦を巻きながら地上へと降下してくる。

ビュウビュウと風が吹き荒び、少年の体を吹き飛ばす勢いで体当たりしてくる。

目も開けていられないような強風に、思わず顔を下に向ける。弾き飛ばされないよう、しっかりと足を地につけ、踏ん張った。
 
そしてもう一度暗雲を見上げる。

するとそこから人のような影が降りてくるのが目に映った。しかし、それが人でないことはすぐに解った。その者が醸し出す空気は、身震いがするほどおぞましいものだったのだ。

暗色の衣を身にまとい、長い黒髪を風になびかせ、“それ”は不気味に笑った。

「もはや天界は私のもの。抵抗は無駄だ」
 
地の底から響くような低い声が、少年を取り巻く。空気が肌に突き刺さってくるかのような威圧感。身動きが取れなくなる。
 
呆然と立ち尽くしていると、いつの間にか辺りは焼け野原と化し、遠くに見えていた空に浮かぶ山々も半壊しているのだった。