どこまでも続く白い空間。
 
真っ白な色の他には何も存在しない、そんな空間。その中にひとつだけ、形あるものがあった。

それは大きな歯車。数十メートルはあるだろう大きさで、廻るごとに低い音が鳴るので、相当な年代物だと分かる。

ぬくもりのある木製にも見え、無機質な鋼鉄のようにも見える、不思議な歯車。その輪の中で白く光る糸がゆったりと紡がれていた。

そして、それを見守る一人の少女。

『やはり、変わらぬのか……』

少女の容姿は十四、五、のものであったが、高くも無く低くも無いその声音からは、何故か長い時を生きてきた老女のような雰囲気が醸し出されていた。

少女はそっと、指先で歯車に触れる。

『哀れな……』

それは誰に向けられた言葉なのか。少女は感情を表すことがなかったので、どんな想いでそう呟いたのか……知る者はいない。

少女が歯車の後ろに目をやると、緑に囲まれた美しい風景が映し出された。

どこまでも続く平原と、咲き乱れる様々な草花。そして遥か遠くには空に浮かぶ山が見える。一番手前の大草原の中には、それらの景色を眺める一人の少年の姿があった。

『それが、現世での貴方の姿……』

おそらくはこの少女と同じ年頃の少年だ。少し茶色がかった柔らかそうな髪が風に揺れている。少女は、その少年を、その行く末を、見守る決意を固めた。