「はぁ…」

冬の晴れやかな朝には、ひどく不釣合いな重々しい溜め息が、いかにも貴族然とした銀髪の美少年、ノア・セイラ・ヴィクセントの口から吐き出される。


年齢はまだ、15,6歳くらいだろうか。
少年はすらりとした華奢な身体に、極上の絹でできた衣服に身を包んでいて、一目見ただけでそれなりに位の高い貴族だとわかる姿をしていた。


神々しいまでに整った白皙の容貌は、深海のように蒼く美しい瞳に似合い、
朝の光を浴び、月光を紡いだかのように輝く青みがかった白銀の髪は、青く飾り気のない細長いリボンで、うなじで一つに束ねられている。

「ノア様、どうなさいましたか?」

ノア専属の執事、キリス・アルト・レオガルドが、艶やかな瑠璃色の髪を、冷風に弄ばれながらも心地の良い、雨音のように優しい声でノアに問う。


外見こそ十代後半だが、彼はノアが5歳の頃から容姿が全く変わっていない。


神々しく整った白皙の美貌も、神秘的な灰色がかった蒼翠(アオミドリ)色の瞳も、どこかノアに似ている容姿も、光の加減によって寒色系類のみに色が変わる、美しい瑠璃色グラデーションの一つに束ねられた髪の長ささえも、全て変わらない。


――まるで彼の周りだけ、時が止まっているかのように。


彼等は、凄艶でいて幽艶な美貌を清らかな朝の日差しに輝かせている。

もし、この姿を誰かが見ていたのならば、その人は間違いなく神々の世界に迷い込んだと思うだろう。


それくらい二人は、人間とは思えない程までに美しい容姿をしていて、色彩が鮮やかで美しい薔薇の花に囲まれた彼等の姿は、息を呑む程までに美しかった。