ところで

廓の者達や客どもには知らていないことだが
この桜太夫、実は忍者として、裏の顔をもっている。

遊女も忍びも、仕事を行う主な時間は夜だから【裏の顔】という表現も妙かもしれないが…。

忍びの里(甲賀)から、とある幼女が遊郭に売られ、そのまま彼女は太夫にまで上り詰め 上級職の客達から、情報を抜き取っている。そしてそれをまた別の忍者へ渡している。

↑というのがおおまかな説明として相応しいだろうか。


桜太夫は、吉原に出入りしている同郷の密通者に情報を渡しているため

祇園に移り住み、その情報ルートが途絶えてしまえば、間違いなく甲賀の里は上様の怒りに触れる。吉原だけでなく、里の存亡をも危機に曝してしまうことになるのだ。

彼女にとって、吉原も甲賀も大切な居場所。守らねばならぬ場所である。


でも、

それなのに…

どこかで 不思議とこんな想いも抱えていた。


…広い世界を見てみたい。。



生まれながらにして闇に生きる身の上であった桜太夫は、日の当たる場所に住む人々の生活を知らずに育ったのだ。
吉原に来ても、遊女は廓から出してもらえないから 外の世界のことは何一つ分からぬ。


新造と呼ばれる見習いから、いつしか太夫になり

更に世界は狭いものになってしまった。

忍びの世界も遊女の世界も、やはり一般庶民達のそれよりは、随分と狭い。

祇園に行ったからといってそれは変わらないかもしれない。

でも… もしかしたら…


そんな淡い期待が、次第に彼女の心を祇園へと向かわせているのも事実であった…。



(どうしよう…)


彼女は多いに悩んでいた。


(どうすれば皆を助けられるのだろう…)



(どうすれば…。)











そう。
冒頭から禿達が言っていたように 太夫が最近、自分の部屋に篭りっぱなしで、一切座敷に出られなかったのは事実であり

理由はこのためなのであった。