「あんな事」があったにも関わらず、散々泣き続けた私は、泣き疲れたのかそのまま眠りに落ちた。
目覚めた時にはいつもの自宅のリビングで、窓の外では相変わらず蝉が泣き続けていた。
硬いリビングのフローリングで眠ってしまったからか、体の節々が痛んだ。
そして、喉の痛みとまぶたの重さにも気づいて、「夜くんはもういない」のだと知った。

心の中はささくれだって、騒ついているはずなのに、頭の中は妙に冷静だった。
体の節々の痛みや、喉やまぶたの調子なんて考えている場合では無いのに、何をどう考えたって、もう何もどうする事も出来ないのだと、冷静に思った。

昨日まで、ほんの少し前まで、夜くんが居たであろうフローリングの一部にそっと触れてみたけれど、温もりなんて残っていない。
彼はここにはもう居ない。
あんなに私を愛していると言ったのに、あんなに彼が怖かったはずなのに、「夜くんはいない」のだという事実に、また涙がこぼれた。