守りたかったのは

彼女の笑顔
屈託のない、温かい笑顔


何も残らないように
彼女を手放した





絢と別れてすぐの頃
由美が俺の家に来た





「久しぶり」





俺が声をかけ終わると同時に、頬を思いっきり平手打ちされた。
・・・当たり前。

こんな痛みじゃ、足りない
絢が流した涙分にもならない






「陽くん!?どういうこと!?」



「どういうことも何もねぇだろ。絢のためなんだ」





怒りで顔を歪ませている由美。
もう一度、俺の頬を叩こうとする由美の手を掴んだ。





「お前ならよくわかるはずだ。」



「なにを!?」



「病気がわかって、いつ転移するかわからない。ビクついてた母親の姿を思い出してみろよ」






俺の言葉に、由美の表情は豹変した。
ベッドに腰を下ろして俺は由美を見上げる。

そして、
ソファーに座るように促した。






「て、転移って…陽くん、まさか…」



「そのまさか。俺、死ぬよ?」



「癌…。死ぬ…?」






由美の戸惑っている表情を窺いながら、
俺は、いつも通り話した。

その様子にも、由美は戸惑っている。





「別に普通の話じゃん?」



「ど…こが!?」



「癌は日本人の死亡原因、第一位。その辺に転がってる話」






泣きだした由美。

なんで、俺のそばにいる女は泣く?
俺なんかのために涙を流す?





「どうして…!?」





由美の父親は由美が小学校の頃に、癌を患い他界した。
そして
母親はそのあとを追うように他界…。

由美は一人になった。