「・・・まぁいい。それより明道、明日、懐剣と水を―――」


 振り返った天冥の視界に、明道はいなかった。さっきまで一緒にいたのにどうして、と思ってから気づく。


 そうだ、俺が怒ったからじゃ。


「なんじゃ、そんな事俺がいちいち長引かせるとでも思うたか。あれは、あれだ。ほんの一瞬の憤怒と言うやつ・・・」


 そう言いかけ、天冥は両肩を跳ね上げた。


 外に、震え上がるほど強力な呪力が、破れ屋の周囲を包んでいるのが、天冥には感じ取れたのだ。

 もし、明道が外にいるとしたら。いや、絶対に外にいる――!


「明道っ!」

「てっ、天冥!」



 案の定、明道は破れ屋を出てすぐの所に立っていた。いや、立ちすくんでいたのだ。


 周りを、邪魅の大群が囲んでいたからである。その中心に立ち往生しているのは、四十代前半の長身で、骨のように痩せこけた白髪の男。


 幻周――――。


『待っておったぞ、明道卿よ』

「幻周っ・・・!」


 ぎりり、と明道は奥歯を噛み締める。