「あれは―――」


 犬のような胴体、熊のような四肢、そして目や鼻の無い顔、巨大な体――。

自らの尻尾を咥え、ひたすらぐるぐると宙を回っている。

 
 四凶、渾沌だ。


 その中から放たれるのは決して神々しい気迫ではなく、黒と白にくすんだ悪しき呪力であった。


「ばかな」


 幻周が奥歯を噛み締めて言葉を漏らす。


「あれは渾沌の型代、本物が封じられているはずがない。呪力も・・・」

「そう、呪力も大したことは無い。言葉の通り、あの像に渾沌が封じられているはずが無いのは確かだからさ」


 天冥はせせら笑うと、そのまま続けた。


「だが、あの型代は渾沌と全く同じ形をしておる。つまり、弱小なりとも渾沌と同じ呪力を微量に放っていたと言う事じゃ」

「・・・その呪力を使い、渾沌を呼び寄せたか」


 幻周の目が見る見るうちに忌々しげな視線に変わる。

 瞳孔の黒い部分が細くなり、その黒い部分を蛇特有の黄色い瞳が覆う。首元には鱗が生々しく光り始めている。