(さて・・・どうしようかな)


 男に依頼を受けた夜、天冥は力試しするように小さく上唇を舐めた。

 どうしようかな、というのは、どう殺すか、ということである。

 呪詛は、相手の顔が把握できていなければ呪力が込められない。

 方術で殺すにしても、天冥のいる所から明道の所まで柳の葉を飛ばすなど(なにしろ居場所も確定できていないので)無理がある。

 天冥は特定の式神(しきがみ)を所持しているわけではない。

 ただ、呪符を一時的に式として使うことならあるが、大抵の妖や鬼は、天冥を前にすると逃げていってしまうからだ。


「・・・ひま」


 そう言葉を漏らすと、木辻(きつじ)大路の近くに立っていた天冥は、地を軽く蹴って杉の木の枝に飛び乗り、上へとよじ登って腰をかける。


 やはり、平地で見る平安京と、高い所から見る平安京は違う。


 あちこちの灯った火や、京全体を照らす月は、普段ただの箱庭のような平安京をいっそう趣深いものにする。


(・・・この時間・・・)


 そう、天冥が莢と出会ったのも、この時間だった。

 まだ二十歳で、背にいくつもの矢が刺さった瀕死の自分を助けてくれた、莢。

 ぎゅ、と天冥は拳を握り締めた。

 なんだか、それを考えていたら無性に寂しさが込み上げてきて、それが天冥を苛立たせたのだ。