円香は、ばぁちゃん家までの道すがら

ドキドキする胸を抑えることが

出来なかった。




立ち漕ぎで、全力でペダルを動かす。

息も荒くなり、少し肌寒いというのに

背中は汗でびっしょり濡れていた。




やっと、やっと会える…。




きっと自転車を漕ぎながら

ニヤニヤしていたに違いない。

途中すれ違った同級生が、

若干ではあるが引いていた。

だが、円香は気にしていなかった。




やっと、やっと、やっと…!!




逸る気持ちでばぁちゃんの家に到着し

自転車を放り投げるようにして停めて

玄関に回ろうとして、やめる。

縁側に回って、目的の人物の顔を目にし

何故か急に冷静な気持ちになった。




しかし身体は正直で、

縁側から中に飛び込む。




「亮佑ーー!」




そう叫んだものの、視線は別な所にあって。

目が合いそうになって、慌てて反らした。

代わりに、亮佑に飛びつく。




「亮佑ーー!」


「おぉ、円香。久しぶっ…!」


「キャー!本物だぁー!

久しぶりだねぇ、亮佑ぇ!」




送られる視線から逃れたくて

亮佑を流れのまま押し倒す。




「まっ、円香!再会が嬉しいのは

十分分かったから!離れろって!」


「えーっ、もぉ終わり?」




最近磨いた演技力では、

多分亮佑を騙せても他の人には通じない。

けれど、それでもやっぱり。

見栄を張ってしまう。




亮佑に慣れた手つきで引きはがされ

やっと、視線を向けた。




ぁあ、やっと…やっと会えた。




「ぁ、直之も久しぶり」