――朝。




円香は制服に身を包み、

リボンを結びながら重たい息をついた。




昨日の直之の話しが頭を離れず

あまり寝付けなかった。




『俺、やっぱり円香が好きだ』




あの言葉が胸に響く。




『明日…学祭が終わったら、

ちゃんと返事してくれ。

どんな返事でも今度こそ受け入れる』




夏の、夏祭りの日。

あの時は亮佑への思いが強すぎて

直之のことなど気にする余地もなかった。




なのに、あの輝の一件があり

きちんと直之のことを考えた。

そして結論は出たはずだった。




「返事なんて…決まってるはずなのに」




決まっている…けど。




「円香?早くしなさい、遅れるわよ」


「ぁー、うん。…って!!やばっ

行ってきます!!」


「行ってらっしゃい。後で行くわねー」




鞄を取って、靴の踵を潰しながら家を出た。

エレベーターの中で靴を直し、

自転車置場に急ぐ。




鞄の中に入れた携帯が震えた。

鞄を漁りながら鍵を突っ込み、

自転車に跨がった。




「もしもし?」


『円香?おはよう。

待ち合わせ、とっくに過ぎてるわよ』


「ぁっ!!ごめん、忘れてた!

今自転車漕いでるから、待ってて」


『…そんなことだろうと思ったわよ。

はぁ。とりあえず急ぎなさいよ』




直之のことで頭がいっぱいで、

早苗と待ち合わせしていたのを

すっかり忘れてしまっていた。




まったく、自分らしくない。

頭を振って気持ちを入れ替え、

立ち漕ぎをしながら

待ち合わせ場所に急いだ。