――亮佑達が到着する、数時間前…






「んんー!清々しい朝だな!」




立石 和馬はナツばぁちゃんの家の前に立ち

小声で呟きながら腕を伸ばした。




垣根の向こうでは、早苗とばぁちゃんが

美味しそうな卵焼きを、

美味しそうに食べている。

早苗の横顔が朝の光に照らされて

和馬は持っていたカメラで盗撮した。




「はぁぁぁあ…今朝も可愛いなぁ!」




通行人の気配を感知し、

和馬は垣根と垣根の僅かな隙間に

身体を沈めた。




犬の散歩をしていた初老の女性が、

ナツばぁちゃんに大声で挨拶している。

和馬の存在には全く気づいていない。

…否、飼い犬の柴犬は気付いたようで

鼻を空中で数回クンクンさせた後、

低いうめき声と共に和馬の

隠れている場所に向かって吠えてた。




「あらあら。早くしろって犬が

うるさいから行くわね。

早苗ちゃん、劇楽しみにしてるからねぇ」




中々動こうとしない犬を

無理矢理引っ張って、

女性は去って行った。




「ぶはぁ…」




ばれるのではないかと息を殺していた為、

隙間から這い出すと深く深呼吸した。

これまで2回ほどばれて、

早苗に誓約書を持ち出されて

長々説教されている和馬である。

用心しなければならない。




「…"ぶはぁ"?」




足元の影に気付いた時には

もう手遅れであった。




ぁあ、また説教される…。




ゆっくり視線を上げると、

そこに立っていたのは1人ではなく

2人だった。