どう話がついたのかわからないけれど、例の男たちは帰っていった。


そして泰兄も帰っていった。


一度も私を見ることなく、まるで見知らぬ誰かとすれ違うように…


「今日はもう帰りましょう」


恵美さんの言葉にマスターも頷く。


「送っていくよ、真琴ちゃん」


「いえ、大丈夫です」


「まさか、相原さんが圭条会の人だったなんてな。じゃあAGEHAもその系列か…」


「あなたは余計なこと言わないの!真琴ちゃん?本当に大丈夫なの?」


心配そうにのぞき込む恵美さん。


「ええ、平気です。もともと私と相原さんとは何でもありませんから。何でも…」


嘘よ、こんなにも胸がつぶれそうで苦しいのに。


かろうじて立ってはいられるものの、めまいと頭痛が私を襲う。


ねぇ、泰兄。


あなたは私に恋を教えてくれた人。


そして、生きる難しさを説いてくれた人。


そして…


私の心を誰よりも打ち砕いた人。


店を出た私はおぼつかない足取りで、まだ明け切らない本通りを歩いた。


彼にもらった大きなブーケを持って。


こんなもの、捨ててしまえばよかったのに。


それもできずに、こうやって抱きかかえて。


ついさっきまで花の香りに幸せを感じていたのに、今はその匂いさえもわからない。


自分の愛する人の正体を知ってしまった衝撃に、生きている心地がしなかった。


泰兄…


泰兄…


『やっとおでましかよ、組長代理の相原泰輔さん』


耳にこびりついたその言葉。


私はかぶりを振った。


圭条会だなんて…


組長代理だなんて…!


その上、もっと信じがたい言葉。


人を殺した…



もう心の中がぐちゃぐちゃ。


私が愛した人は、一体どんな人なの?


相原泰輔って、何者?


わからない、わからない、わからない。