アイツも恋愛で痛い目に遭ってたなんて知らなかった。
失恋なんて、一番縁がなさそうなのに。


「何か用か?」


放課後、廊下から教室の中を覗き込む私に気付いて橘センパイがやって来た。


そうだ!用があるのよ!
私はスカートのポケットに手を突っ込んで、例のアレを握りしめる。
こんなもん、一般の乙女は持ち歩かないっつーの。


「これ、返します!」


橘センパイに突き付けようとしたとき、横から大野センパイが顔を出した。


「あれ、チエちゃん。
何持ってんの?」


マズイ!
ここは大野センパイのクラスでもあったんだ!
こんなもん大野センパイに見られたら、一生顔合わせらんない!


「何でもナイです!」


私はとっさにポケットの中にアレを戻すと、橘センパイの袖をひっ掴んで廊下に出た。