日下先生はすぐに見つかった。


職員室にも隣りの印刷室にもいなかったから、非常階段をのぞいてみれば。

階段の下の方で、暮れてきた空を見上げて、煙草の煙を吐いている彼がいた。



今日の休憩時間にも見た、無表情。

『るいち』が深く考え事をしている時の顔。



声をかけにくくて、ぼんやりと先生の横顔を見下ろしていたら、

ふとその整った顔がこっちを見た。



日下先生は一瞬驚いたような顔をしたあと、

ゆっくりと、穏やかに微笑んだ。





「どうした、小鳥遊。まだ帰ってなかったのか」




携帯灰皿で煙草を消す先生に、あたしはうなずきながら階段を降りる。

1段1段、数えるように。




「日下先生は、なにしてたの?」


「俺か? そんなもん、仕事に決まってるだろ?」


「そうは見えないけど……」


「休憩時間も仕事のうちってことだ。で?勉強でも聞きにきたのか?」




「ううん。……先生を、呼びに来たの」